「龗」文字について-2
日本書紀写本では

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永徳元年以後の『日本書紀』

■永徳元年1381■
「日本書紀巻第一/永徳元年十月廿一日以累家之秘本書写之訖/正五位下行中務少輔卜部朝臣兼敦」/「同年黄鐘第三月加点校合而己/正四位上行神祇権大副卜部朝臣兼熙」と奥書きのある1381年の手書き写本。
小生が目にすることができる最古の写本で,口3つ付きの龗字で書かれている。
「闇龗」のルビは[オ],「高龗」のルビは[ヲ],読みの注は[ヲ]と使い分けられている。理由は分からない。
「力丁」のルビは[リョクテイ]

京都大学付属図書館蔵 http://hdl.handle.net/2433/24032

■慶長四年1599手書き■
下は跋文に「慶長己亥姑洗吉辰 正四位下行少納言兼侍従臣 清原朝臣国賢敬識 以□(欠字)本板行」 別紙奥書に「奥書曰、右上下巻所以朱点直改者向於吉田萩原之第受聞神代之口義之節以彼相伝点之訖所謂日本書有、以仮名為根元之故点之差別読之開口神書之肝要也、云々、秘蔵云々、重而二巻可書改点之者也 時明暦二年二月十七日 賀茂縣主季通」
とある1599年の手書き写本。
口3つ付きの龗字で書かれている。
この年,木活字の慶長勅版『日本書紀』が発行される。
「闇龗」「高龗」のルビは[ヲ],読みの注も[ヲ]で統一されている。 「力丁」のルビは[リョクテイ]

京都大学付属図書館蔵 http://hdl.handle.net/2433/24029

■慶長四年1599活字■
手書きの写本でなく、印刷物として最初に刊行された『日本書紀』。後陽成天皇の命で木活字で印刷した慶長勅版。20数冊しか残っていない超貴重本。写真は国学院大学所蔵。
赤はkyonsight、ルビもレ点もない。「龗」字は正確に彫られている。


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国立国会図書館貴重画像データベースhttp://www.ndl.go.jp/

■慶長十年1615 口の変形罒が登場■
つぎは「慶長十乙巳年三月上旬二日」の奥書のある1605年の写本。
たいへん興味深い口の変形である。
栃木県の高龗神社の文字に多い,
「雨+罒+龍」

京都大学付属図書館蔵http://hdl.handle.net/2433/828
石に刻字する際の工夫かと考えたのだが,この写本に見つけることになった。
すでに400年前には登場している。
訓注のルビは清音で[ヲカミ]になっているが,本文は濁音[ヲガミ]にしている。

■慶長十五年1610 版木■
(明治十六1883年刊 伴信友校訂)
明治に出版された書紀だが慶長四年の清原朝臣國賢敬識「勅本板行」版を復刻したもの。慶長十五1610の洛汭野子三白の後書きが慶長四年の跋文より前にある。
明治の奥付が面白い。「印行所 東京神田五軒町八番地 石版銅版木版諸株券書籍類印刷所 精版會社」とある。
番信友1772-1846が江戸末期に校訂した書紀を明治になって出版したもの。全30巻。
おかみ字は正式。ルビがふんだんに振ってある。漢文訓み下しのオクリもふんだんに。
「クラヲガミ」は濁点つき。高龗神は清音。
「レイ此ヲハヲカミ」と[ヲ]を使用。

国立国会図書館近代デジタルライブラリー
http://www.ndl.go.jp/

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口3つなしの『日本書紀』
■天文二年1533■『日本書紀神代巻』
「天文二年1533三月廿一日於青蓮院講始同五月六日講終(已上此巻/五ヶ度)環翠軒宗尤/従二位清原宣光蔵」の奥書があり室町にはすでに口なしの「おかみ」字が使われている。
儒学者清原ノブタカ=環翠軒が大永七年1527頃に書写し,天文二年1533に書紀解読の講義をした,赤点はそのときのものらしい。
龗は龍であると説いている。
発音を示す反切もすでに「切」を使用している。
つぎに出てくる「高龗」と「闇龗」は口3つ付きの正字。
さらに高龗と闇龗は同じ竜神の類としている。
口なしと口ありと両方の文字が使われているが,これはスサノオについてもいえることで,素盞嗚と素戔嗚と皿付きとなしの両方が使われている。

京都大学図書館蔵http://hdl.handle.net/2433/886

■元和七年1621■
つぎは最初と同じ清原宣賢の『日本書紀神代巻抄』を元和七年1621に書写したもの。
「闇龗」は口なし雨龍,大きい字の本文も小さい字の語義も口なし。
ところが「高龗」の方は大きい字の本文も小字の語義も口3つ付きの正字。
さらにここでは闇龗にもきちんと口が付いている。
口付き,口なしと正確に書き写していることが分かる。
左の龗のルビが「ケイ」に見える。凶[ケウ]のルビと同形に見えるのでやはり[ケイ]=未解決

京都大学図書館蔵http://hdl.handle.net/2433/827

つぎは「舎人親王 編 清原朝臣原蔵版 明治17年3月6日翻刻御届同4月出版 上原氏」と扉書のある1884年、上原佐之吉刊行の復刻版。原著の発行年不明。
最初にあらわれる「おかみ」字は雨+龍である。 しかし、そのつぎの「おかみ」2字は口3つ付き。
3つめのルビ「ニイ」に見えるのは「レイ」ではないか。 「力丁」には[リョク・テイ]のルビ。
おかみのルビは、[ヲ]に見える。龗は清音。
写本の系統で「闇龗」は口なし,「高龗」は口ありの伝統があるようだ。>
しかし,以上3点はまだ口3つ付きを使用している。雨龍は闇龗の箇所だけである。

国立国会図書館近代デジタルライブラリー
http://www.ndl.go.jp/
下は口あり正字と口なし雨龍の混在が上記3点と異なり,闇龗と高龗が口なし,訓注が口ありというめずらしい書紀。
他にも月と日,大山祇が大山底などの誤写があり,口なしは誤写なのだろう。
京都大学付属図書館蔵の年代不詳の写本に見ることができる。

京都大学図書館蔵http://hdl.handle.net/2433/24028

龗は龍であると説いている。
発音を示す反切もすでに「切」を使用している。
つぎに出てくる「高龗」と「闇龗」は口3つ付きの正字。
さらに高龗と闇龗は同じ竜神の類としている。
口なしと口ありと両方の文字が使われているが,これはスサノオについてもいえることで,素盞嗚と素戔嗚と皿付きとなしの両方が使われている。

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