六国史では
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六国史の『日本書紀』1893年
六国史校本、巻之第一、大八洲学会訂正
飯田武郷,木村正辞校訂

おかみ字は正式。
ただし、高龗がでてくる一書は他の日本書紀と異なる位置に編集されている。
赤矢印の4行はふつう「赤レ」の箇所に入る。
校訂の結果なのか単なる編集ミスなのかは不明であるが,飯田武郷の通釈が同様なのでこの系統の写本があるのだろう。



『日本書紀通釈』1890年
六国史校本の校訂者飯田武郷著Iida Takesato 1828(文政11.12. 6) 1901. 8.26(明治34)
大八洲学会,明治22-23 1890刊

国立国会図書館近代デジタルライブラリー
 江戸から明治にかけて文武両道で活躍した 飯田武郷が江戸までの書紀研究を網羅した大著。いまや誰もとり上げないので、参考までに。
おかみ字は口3つ付きの正字。
 六国史校本の順序が単なるミスでなく校訂者の判断によることが分かる。ただし「高龗と見えて。已ニ高龗神は成坐るを」と「高」をつけるミスがある。したがって飯田武郷を引用するとそっぽを向く方もいるらしい。それでも当時の出版事情と情報の共有事情を考えると、素人にはとうてい及ばない驚異の情熱と精力が感じられる。
 現在、活字では読めないと思うので、どんな本なのか水神・おかみのところを写してみた。
-----入力はkyonsight,変体仮名の「尓」は「ニ」に変換。ルビは( )に。句点原文のまま。

罔象女。記云於尿(ユマリ)成神名彌都波能賣神と有り。[一書にも。小便に成坐る神とあり。]名義。重胤云美都ハ水なり。水ハ山川海陸共ニ充満る物なるニ依て山ニハ大山祇ノ神。谷ニハ闇龗(クラオカミノ)神闇罔象(クラミツハノ)神坐し。速川ニハ瀬織津(セオリツ)比<口+羊>ノ神。水門ニハ速秋津日ノ命。海ニハ大綿(オオワタ)津見ノ神。井ニハ御井(ミ井)神。水を引(マカ)するハ水分(ミクマリノ)神。雨ハ高龗(タカオカミ)神なと。持分て主り玉へれと。水神ハ何れを司すと云ニ。右の如きハ。各其限の有を。水神ハしも其用を成す水の悉(コトゴト)くニ主(ムチ)と坐神也。然れハ美都波ハ水生(ミツハ)ニて。水を産成し玉ふ意の御名也けり。偖sate波の生なる由ハ。上なる埴山の下ニ云るを。比言ハしも。本我と彼とを判つ意なるを以て考るニ。山野草木ニ含る水気。始て分れて水の体と成し。雲と判れて雨露となる是即水の端(ハジメ)を成て生出るな里。此を以て美都波の意を思ふへし。と云れけり。偖今世の人ハ。大概美豆と濁りて云へとも。古ハ清濁二方ニ云へりしなり。・・・
罔象の字ハ。史記に水之怪ハ龍罔象。白澤圖に。水之精名罔象。なとあるに採れるなり。和名抄に魍魎をミツハと訓し。水神也と注せり。・・・
(古事記引用)・・・を第七一書ニ。一段是為高龗と見えて。已ニ高龗神は成坐るを。今又此神の生坐ハ。其御功を輔相て、雨を降らせ玉ふ神なるへし。名義記傳云。久良ハ谷のことなり。闇と書るは借字也萬葉十七鶯の奈久々良多爾とよめるも。たゝ谷のことそ。又諸国ニ某倉倉某と云地名の多かるも。谷よりそ出つらむとあり。さて名義淤加の意ハ未思得す。美ハ龍蛇の類の称なりと。記傳ニ云れつれと。Ssuzuki重胤云、龗ハ字書ニも龍也とも注せれハ寔makotoニ龍神ニ坐へし。常陸風土記行方郡絛に。俗謂蛇為夜刀神。其形蛇身頭角。*率似鹿と云る状。寔ニ合へり。名義大驅水(オカミ)なるへし。記傳なる大年神の后神に天知迦流美豆(アメシルカルミズ)比賣の。天は借字ニて。雨知驅水姫と云事と。心着て考るニ。雲霧と成て水の空ニ上れる即驅(カル)なり。又其雲霧を分散して。雨と降らせる其も亦驅なり。又夏なとの照続て。遠灼く晴度りたる大空ニ。夕立の降る状なと。殊ニ其水を驅給ふ事の甚しき也。此を以て此神の水を御心の任々ニ。物為玉ふ事を知へし。豊後風土記ニ、球珠郡球覃郷。此村有泉。昔景行天皇行幸之時。云々令汲泉水即有蛇龗。謂於箇美。於茲天皇勅云。必將有龍一作**自死。莫令汲用云々。・・・萬葉集二巻・・・是らを思ふニ。此神は龍ニて雨を物する神也。一書に高龗と云もあり。其ハ山上なる龍ノ神。この闇龗ハ谷なる龍神なり。とあるハさることなり。と云り。神名帳ニ意加美社處々ニ見ゆ。

*『常陸国風土記』「俗kunihitoの云はく、蛇hemiを謂ひて夜刀の神と為す。其の形、蛇の身にして頭kashiraに角あり。率ohmuneね祠matuりて難wazawahiを免る」より推測すれば『日本書紀通釈』中の判読が難しい「下に十」の字は「率」。「率似鹿」は「おほむね鹿に似る」と読むか。
**自の下に死=Unocodeなし。臭の同義らしい。

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