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 オウィディウスの『転身物語』巻四に,妖精サルマキスが登場する。小アジア,ハリカルナッススの泉の妖精である。
  彼女はキュルトルスの櫛でなんども髪をくしけずったり,泉の水鏡に見入って,自分に似合うポーズを研究したりしていた。見入っても魅入られることはなく,彼女は自分にではなく男の子に向かってゆく。
ヘルメスの息子が気に入って,彼を泉の中で無理やり押さえつけ,どのような日も彼を私から,私を彼から引き雌すことのないように神に願ったため,二人はしっかりと抱き合ったまま,気の毒なヘルメスの立場を大切に考えてやるなら,抱きつかれたまま一つになり,女とも男ともつかない両性具有のヘルマプロディトゥスに転身してしまう。悲しんだ彼ヘルマプロディトゥスは父ヘルメスと母マイアに,  この泉にとび込む者は,あがったときに半陽陰になり,この水にふれる者は,女のように力がなくなってしまうように と願ったため,それ以後このサルマキスの泉は不思識な魔カを持つようになった。
 この話では,もちろん泉は自然学的に描写されず,蘇生の泉や若返りの泉ではなく,悪魔的泉が語られているのがおもしろい。
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