kyonsight
純粋な夏のまなざしに ひっそりとひからびた村の記憶。
影はしだいにほこりを静め、はずれにきしる乳母車がゆっくりと帰ってゆく。
山あいの死に絶えたようなこの乾いた村に、
たまたま生まれ落ちて今日はすでに暮れた。
幻を生命に同調させようと思い、じっと泉をのぞいて歩きだした。
鷺草にのって光のうしろ側を渡った。
裏がえされた季節は冷えびえしていた。
ガラスの折れるように花が散って、カンラン石に折り返し月見草がうつった。
貴い井戸端のおしゃべりをうしろにきいた。
嘲笑もなかった。世間もなかった。
いまだ話されたことのない言葉がとめどなく蒸発していた。
朝顔のような車輪を見つめながら立ち止まって文法をどもった。
物理学のような夕方のことだった。
垂直の街を、下駄が曲がった。
彫刻のような乳母車の目覚め、再び露を落とす生命の唯一のきらめき。
黒ウサギの寝床が燃える。
垂直の真昼、物質は四方体の目玉をぎらつかせる。
混沌のたそがれて視界のかすむ時、色彩は沈んで影が残る。
空想の村の消えかかる。
尾花の傾斜、鬼女の祭の薄笑い。
竹をぶち割るぼんでんの、空しい肉に反射する柚子。
生はすでに死物を生んだ。この、うつつの夢の回帰の時、もうふり返ることはない。
ゆかたのおしゃべりは遠くなった。
村ももう見えなくなった。
ただ、忘れ去るささやきが花をかすめた。

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