kyonsight
季節を渡るいくつかの物語りによれば
ある時きみは不思議に明るい空と海と太陽の間で
小鳥のように眠っていたという
 最も単純な眠り
それからまた都会の白い建築の間を
冬に向かう悲しい小鳥のように
うなだれて歩いていたという
 夢のページが開かれたまま
また緑厚い街路樹の間をたったひとりで
時よりも重い憂愁を頭にのせて歩いていたという
 ガラス細工の青い空
また別の物語りによれば
うたうはずだったくちびるを閉じて
鏡の背後の映像にさよならをつぶやいていたという
 こぼれ落ちそうな星形の心
複数の少女たちをめぐるいくつかの挿話が
半少女から少女を奪い
女性へと傾いてゆくためのノンブルを追って進んでゆく
さわやかに悲しいそれらの断章は 女学校の窓からもれる オルガンの
音符と音符の間を 身を切るように抜けてゆく小鳥の軌跡に似ている
そして新しい物語りによれば
見知らぬ自身をめぐって
見知らぬ空に散りばめられた いくつかの断片との出会いに
そっと小くびをかしげるという
また新しい海辺の物語りによれば
泉からこぼれるような夢の中の微笑に気づいて
もういちど さざ波のようにほほえむという
何もかにも帰らない
次のページにはもう新しい季節が三行ほど組まれている
過ぎてしまった季節とはいったい何か 
物語りが思い出せ ないとしたら
 海辺の電柱で居眠りする小鳥よ
やってくる明日はいつも輝いている
誰も知らない明日
 空をゆく小鳥の目に映る地上は春
かろうじて微笑に耐えた初恋のロマンティシズム
ことりともしない陽だまりの中
透明な蝶がとおりすぎる時
ふと小鳥の心臓がかすかにふるえた
輪を描いて戻るはずのない日が掌の中
夢のページを開くと
笑顔の破片がガラスのようにこぼれた
真冬の晴天が夏の記憶を呼びさます
さわやかなブリーフ・マリーンに似て
乾いた舗道をとおりすぎたきみは その時 半少女
もやった春のピアニッシモ
時がゆっくりと消えてゆくのを願い
降りしきる凋落の奥でしかし
夏は足早にやってくる
風が深夜の都会を走り抜ける
走れ 少女よ
時に追い越されないように 走れ!
限られた少女の額に汗 私はといえば
砂時計の終熄のように目を閉じる
二月は夏のための冬眠期
白い都会の青い睡眠
あなたが笑った時
砂の上の足跡は風になって消えた
 砂の上でまた眠る
水色のうたが三月の海にひろがる
いろいろな風の音階をききながら
小さくなったきみの後姿は
石段を曲がる時にもう一度かすかに揺らいで
こぼれ落ちる断片を集めた
白い花が頬を染めながら開く水の朝
魚は光の中で水草の蔭に隠れた
あなたは閉じていた美しい目を
夢のたわむれのように開いた
さりげなく見捨てられた桜貝の唇のように
ふと口笛が吹きたくなる朝
きみは空気を彫刻する?
ほのかな潮の幻想の中で
また眠る
紅い花が脳髄から茎を伸ばして咲き
青空に消えた時に 闇
きみのまわりで
空気が深い色に結晶する
美しい疑問の顔がかたむいて
微風をさそう
あなたは水のように笑った
明日はまた知らない小枝に眠る小鳥の睡眠に似ている
目覚めて昨日のかけらもなく

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