『日本書紀』で「龗」の漢字があてられ
「高」の字と組み合わされる


日本語を軟弱な音読み漢字で書いた萬葉・古事記じゃなくてこっちは難しい漢字を使った漢文だぞ,雨に口3つ,さらにその下に龍だぞ,どうだ読めないだろ,okamiと読め。というので神代上の訓注に「,此には於箇美と云ふ」。いよいよ「おかみ」にも漢字があてられる。
「巻第一神代上」に出てくるのは3か所。『古事記』と同じくカグツチの血から神が出てくる内容の箇所。
 
■復劒鐔垂血,激越爲神。 號曰甕速日神。 次熯速日神。 其甕速日神,是武甕槌神之祖也。 亦曰甕速日命。 次熯速日命。 次武甕槌神。 復劒鋒垂血,激越爲神。 號曰磐裂神。 次根裂神。 次磐筒男命。 一云,磐筒男命及磐筒女命。 復劒頭垂血,激越爲神。 號曰闇龗。 次闇山祇。 次闇罔象
最後の三神は水の神「闇龗くらおかみ,闇山祇くらやまつみ,闇罔象くらみつは」。古くは刀剣三神・火力三神・水三神に分けた。『古事記』より闇山祇が一神多い九神。遂抜所帯十握剣,斬軻遇突智為三段。カグツチを三つに切り倒した剣の三箇所,剣刃・剣鐔・剣頭から三神ずつで九神という数字合わせをした一書があったということだ。
「山神等號山祇」と書いてあるので「闇」を谷にこじつけて闇山祇を水に関係ありとしているのだが・・・未解決。
■一書曰,伊奘諾尊,拔劔斬軻遇突智,爲三段。 其一段是爲雷。 一段是爲大山祇。一段是爲高龗
カグツチを三段に切った一段から生まれた神の名を「高龗」という。
日本書紀で「高」の字と組み合わされることになる。注目すべきは「」字が付いていない点。雷神,大山祇神には神字が付いているのに。
,此云於箇美。音力丁反
上の一書曰の龗の読み方を示している箇所。「おかみ」ト読メ。古事記とは「箇」が異なるが,同じ内容の神話で「」=古事記の「淤加美」である。
書紀では難しい漢字には読み方と音の注をつけていた。「力丁」は音読みを示す。
ルビを振った江戸期の書紀では「呉音リキ+漢音テイ」で「リキテイのカヘシ」としている写本と「漢音リョク+漢音テイ」としている写本がある。いずれも[リイ]。700年頃の日本風漢字音を示そうとしたのだろうが,中国語であれば「の字は[lí]+[dīng]=[líng]となるから,ここから乱暴に日本風漢字音を導き出せば同じく[リン]。(記号文字化けたらすみません)岩波版を最近調べたところlįək+täŋ で[läŋ]としているので,こちらはカタカナなら[レン]が近いか。
ただ,書紀の編者が中国語の音で表わすつもりだったのか,日本語の音で示すつもりだったのかが分からない。
森弘達氏の分類で巻1はβ群なので,分注も倭音ででいいのだろうが,当時の字にわざわざ発音指南を表記したかった編者の意図はどの辺にあったのだろうか。を使った熟語が他にもあったのだろうか,いまのところ謎である。
書紀の始めの方に「大日孁貴,此云於保比屢能武智。力丁」(コレヲバ,おほひるめのむちト云フ。孁ノ音ハ力丁ノカヘシ)の例が見える。靈の下についている「巫」が「女」になっている字。雨女より,晴れがましく,ずっと由緒正しい。なにしろ「一書云,天照大神」である。
余談だが「反」は「切」に変化する。「●XY」の形式は時代が下がれば「●XY」と表記される。反切法といわれるのはそのため。朝鮮語の学習に反切表を使うが,ハングルの発音表のこと。
1982刊行の『漢韓大辞典』ではの反切表記は「郎丁切」で,カタカナで[レイ]としている。
 
『豊後国風土記』(大系本風土記p.362)「即在蛇龗」の分注に「謂於箇美」とある。書紀を模して注したか。ただし大系では2文字でオカミと読んでいる。
大系の注は「水の神。蛇の類をいう。山椒魚またイモリかとする説がある」。蛇に足の生えた生物が泉に生息していたので,きっとまずいから飲むな,といわれてしまい臭泉からクタミの郷という地名が生まれたとする説話なので,水神はいいすぎで書紀研究の反映だろう。
字形は天理図書館蔵の承応三年書写本では口なしの雨+龍。1654年には口なしのオカミ字が書紀以外でも使われたとになる。
(これも余談だが,新井白石「東雅」「狼をオホカミといひしは」で「豊後国風土記に直入郡珠覃郷の蛇をヲガミといひしが如くなるべし」。蛇や狼が「おかみ神」だといっているのではなく大神は遍在することを述べたところ)

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